Sunny Keita



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10月7日(日) グダンスク

・・・昨晩も、ユリアは私のことを心配して(?)質問してきた。
「明日はどこへ行こうと思っているの?」
私は少し悩んだ。というのは、二つの選択肢があったのだ。
一つは、「アウシュビッツ」。
ナチスドイツの戦時下行為で、あまりにも有名なこの地は、
実はポーランドにある。
「アウシュビッツ」はドイツ名で、
ポーランド語では、「オシフィエンチム」という。
もう一箇所は、「グダンスク」。
グダンスクには、ユリアとは別の友達が居る。
問題は、オシフィエンチムとグダンスクは、
首都ワルシャワを挟んで、南北正反対の方向にあるということだった。

で、結局、歴史よりも友情(?)を選ぶことにした。
しかし、さらに厄介な問題があった。というのは、
グダンスク在住の友達、アネシカとは未だ一度も連絡が取れていない。
電子メールを送っても返事が来ないし、
電話番号はどこかにいってしまった。
持っているのは住所だけ。

まあ、なんとかなるか。

地下鉄で、ユリア邸の最寄駅から、ワルシャワ中央駅まで行く。
今日のワルシャワは、霧が立ち込め、「東欧っぽい」。
しかし景色が美しくても、排気ガスがひどいのには参る。

地下鉄から国鉄の駅に移動し、時刻表を調べてみた。
ワルシャワを10時に出るとグダンスクに着くのは午後2時!?
夜6時にグダンスクを出て、ワルシャワに深夜11時着...。
本来ならば一泊していく所かもしれない。でも私にはもう時間がない。
強行突破だ。

ポーランド国鉄の一等車はとても快適。
6人一部屋の個室になっていて、
空いているのでゆったり足を伸ばせる。
片側3人分の座席が全部つながっているので寝られるし
(寝ないが)、座席一つ一つも「社長の椅子」かと思うくらい大きい。
これで4時間乗って、88ズオティ(約3,000円)は安い!
日本だったら東京−名古屋くらいの距離だから、四分の一の値段だ。

景色は延々と農村、森林が続く。
10月なので、実りの季節は過ぎたようだ。どこか荒涼として物悲しい。
列車はそんな景色は無視し、矢のように速く走る。
電化されているし、線路がどっしりしていて日本の新幹線のようだ。
しかし、駅と列車はものすごく古く、汚れている。
ローカル列車の落書きなどは、
それが列車のデザインかと思うほど、ものすごい...。

北の港町、グダンスクだ。

買った地図と、住所を頼りにアネシカの家に行く。
アポ無し訪問である。
ベルを鳴らしても反応が無いが、表に居た人が話しかけてきた。
「イェステム・ケイタ。ヤポンチケム。アネシカ・オストロースカ。」と
(ポーランド語の単語帳を見ながら)尋ねると、
その中の一人の女性が「ちょっと待ってろ(たぶん)」、と言う。
どうやらアネシカ母らしい。
アネシカ母は、携帯電話で至るところに電話をかけまくり、
ついに本人を捕まえた。
アポ無し訪問なのに、あまりにも親切だ。
アネシカは友人宅に居たが、「5時までは帰れない」と言う。
5時に会って、6時に帰るのか...。

5時に改めてアネシカ宅に来ることにして、それまで市内を観光する。
港町として栄えたグダンスクはとても美しく、古い街だ。
木製の大クレーンや、見上げるほど高さがある石門、
「これぞ欧風」という感じの家々や教会、噴水のある広場。
しかしこれら建造物は全て、第二次世界大戦後の再建とのこと。
グダンスクは港町で、軍事上重要な拠点だったので、
ナチスドイツの格好の標的になったそうだ。
改めて歴史とは何か考える。

アネシカに会う。
カリフォルニアの英語学校では、自分の成績が良いのをいいことに、
放言言いたい放題、いわば「我がまま女子」だったアネシカ。
ポーランドで再会しても、そのおてんばは全然変わっていなかった。
でも、思いもかけぬ人物が現れたので嬉しかったのだろう。
「マイマム(母)のサンドイッチは美味しいんだから、全部食べなきゃだめ。」
「せっかく用意したワインが飲めないの?」
「私の部屋、狭いけど綺麗でしょ。」
「この猫ったら、餌ばっかり食べるんだから。」
「時間は充分にあるの。友達が車で駅まで送るから心配ないってば!」
万事、こんな感じ。
私のワルシャワでの滞在先が、女性(ユリア)の家であると知ると、
何歳なの?とか、ポーランドガールはどう?とか
ちょっと妬いているのがかわいい。

そんなこんなでアネシカ母お手製のキノコ酢漬までお土産にもらって、
とっぷり日の暮れたグダンスク駅を後にした。
途中、列車と同じ速度で走るウサギを発見。なんという俊足であろうか。
寝ているのか起きているのか分からぬうちに
ワルシャワ中央駅に到着。
(注:本当は、絶対に列車では寝てはいけない。財布をスラレルから。)
中央駅は夜行列車を待つ人々でにぎわっているが、
やはり怖い。案の定「ヘイ・ユー!」と呼び止められ、一目散に逃げる。
こんなことを言われて止まる奴はいない。
もっとも、止まらないと撃ち殺されてしまうかも...。
実際、ワルシャワ市内のあちこちで窓ガラスがひび割れており、
その割れ方はどう見ても、発砲の後である。
なんともはや、恐ろしい。


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